難聴と補聴器について
聞こえについて
年齢とともに「聞こえ」は少しずつ低下していきます。
耳鼻科では「聞こえが悪いかも」と感じたときに、まず聴力検査を行います。
聴力検査では横軸「音の高さ(Hz:ヘルツ)」と、縦軸「音の大きさ(dB:デシベル)」を調べます。
特に会話に大切なのは 500Hz~2000Hz の音域です。
この音域で「どれくらいの大きさの音まで聞こえるか」によって、日常生活への影響が変わります。
- ~25dB
- 普通の会話は問題ありません。小声の話し声も聞き取れます。
- 25~40dB
- 多くの場合、会話に支障はありません。ただし、話す相手や環境によっては聞き取りにくいことがあります。
- 40~60dB
- 静かな場所で、1対1でゆっくり・はっきり話してもらえば会話は可能です。 ただし、ところどころ聞き逃したり、聞き返すことが増えてきます。
- 60dB以上
- 大きな声でも聞き取りが難しく、会話に大きな支障が出ます。
補聴器について
「聞こえにくい状態」が続くと、脳が音を処理する力(言葉を聞き分ける力)が少しずつ落ちていきます。
一度この力が低下すると、元の状態に戻すのはとても難しいです。
また、難聴が進んでから補聴器を使い始めると、その分音を強く大きくする必要があり、「うるさい」「違和感が強い」と感じやすくなります。
そのため、できるだけ自然に聞こえる時期から補聴器を使い始めることが大切です。
「まだ早いかな?」と思う段階でも、一度ご相談いただくのをおすすめします。
補聴器を考えている方へ
「聞こえ」のしくみ
私たちはよく「耳で音を聞く」と考えがちですが、実際には音(空気の波)が耳の中に入り、鼓膜を揺らすことで音が内耳に伝わります。その後、音の情報が神経を通じて脳(聴覚野)に届き、初めて音として認識されます。つまり、耳は音を感じ取る場所、脳はその音を理解する場所です。
補聴器とは
補聴器は、耳に入ってこようとする音を感知し、音の高さに合わせて予め設定された分だけ音を増幅して耳に届ける装置です。
患者様の聴力に合わせて音を調整し、聞こえやすくします。
補聴器と集音機の違い
外来では「安い集音機を買った」と聞くことがありますが、集音機も音を大きくする装置です。しかし、補聴器のように患者様の聴力に合わせて調整されていません。集音機は音の大きさによる調整ができず、過剰に音を大きくしてしまうこともあります。特に騒がしい場所では、耳に負担をかけてしまう恐れがあるため注意が必要です。
- 補聴器:患者様の聴力に最適化され、大きな音にも配慮されている。
- 集音機:安価だが音を単純に大きくするだけ。
補聴器を付け始めると
補聴器は「音を大きくする機械」として、患者様の聴力を補う役割を果たします。しかし、脳の「言葉を聞き取る能力」は補聴器を使用する前後で変わりません。多くの患者様が「補聴器を付けて音は聞こえるが、何を言っているか分からない」と言われますが、これは難聴が長期間続いた結果、「言葉を聞き取る能力」が低下しているからです。この能力は、英語のリスニング練習のように、日常的に会話を聞き続けることで回復する場合があります。
◎補聴器の使用後もリハビリテーションが必要です。
補聴器はいつ頃から使うのがいいのか?
補聴器をいつから使うのがいいかは、よく聞かれる質問です。
医学的には「聴力レベル40dB程度」から補聴器の適応とされ、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科で「聞こえ8030運動」(80歳で聴力レベル30dBを保とう)が推奨されています。難聴は認知症の最も高いリスクとも言われているため、早めの対応が望ましいです。
ただし実際には、生活環境や目標によって必要性は異なります。
例えば「自宅中心で1対1の会話が多い方」と「仕事で会議や大人数と話す方」では補聴器の必要度が大きく違い、聴力レベル40dB以下であっても補聴器を使用することで生活の質が良くなる可能性があります。
そのため、ご本人やご家族で「どのくらい聞こえる状態を目指したいのか」を話し合い、必要であれば耳鼻科医と相談して補聴器を検討するのがよいと思います。
◎聞こえにくかったり、TV大きいと指摘されたり、聞き返しが多くなったら是非耳鼻科をご受診下さい。
補聴器はどこで購入する?
補聴器は精密機器であり、定期的なメンテナンスが欠かせません。聴力の変動や環境の変化に応じて、定期的な調整やイヤフォンに詰まった耳垢の掃除が必要です。それらができる「認定補聴器技能者のいる補聴器専門店」に行くことをお勧めします。
※当院でも認定補聴器専門店(マキチエ株式会社)の担当者が補聴器調整を行います。
補聴器の選び方
形態
補聴器の形態は大きく「耳あな型」「耳かけ型」「ポケット型」の3つに分 けられます。最近は技術の進歩により、形態による違いが少なくなってきてい ますが、それぞれに特徴があります。
- 耳あな型:オーダーメイドで耳のあなに入れるタイプです。
-
- 装置ごと耳の中に挿入されるため、目立ちにくい
- 運動時に外れにくい
- 手先が器用でないと装着が難しい
- 重度の難聴には補聴できないことがある (技術の進歩で改善されつつあります)
- 耳かけ型:耳の後ろにかけるタイプです。
-
- スタンダードなタイプで、広く普及している
- どの程度の難聴でも対応可能
- 眼鏡やマスクと同時に耳にかけるため邪魔になる
- ポケット型:装置を胸ポケットに入れるタイプです。
-
- 昔ながらのタイプ
- どの程度の難聴でも使用可能
- コードが邪魔になりやすい
◎耳鼻科医や認定補聴器技能者と相談し、ご自身に合った形態を選んでください。
補聴器の機能
補聴器は音を大きくする機械ですが、さらに「雑音を抑える」「特定の方向 からの音を強調する」など、さまざまなオプション機能を備えたモデルもあります。使用環境や生活スタイルに合わせて必要な機能を選ぶことが大切です。補聴器の価格について
補聴器は精密機器であり、価格帯は幅広く、おおよそ5万円~50万円程度と言われています。一般的に使われるクラスでは、10万~20万円程度のものを選ばれる方が多い印象です。機種によって性能や快適性、便利なオプション機能(雑音抑制・充電式・Bluetooth連携など)が異なり、オプション機能を追加すると価格が高くなることもあります。ただし、「高いもの=良い補聴器」というわけではありません。
大切なのは、ご自身の聞こえの状態・生活スタイル・使用場面に合った補聴器を選ぶことです。当院では、必要な性能や費用面も含めてご相談いただけます。
※価格や制度については以下の点にもご注意ください
- ここで示した価格はあくまで一般的な目安であり、販売店や機種によって 異なります。
- 難聴が重度で身体障害者手帳(聴覚障害)をお持ちの方は、「福祉用補
聴器」の制度により、自治体から補助を受けられる場合があります
(耳鼻咽喉科での診察および書類が必要です)。 - 身体障害者手帳がなくても、市区町村独自の補聴器助成制度があれば利用
できることがあります。対象条件・所得要件・助成内容は自治体によって
異なるため、詳しくはお住まいの役所へご確認ください。
足立区も補聴器助成金がございますのでご確認ください。
補聴器の購入を考えている方は、ぜひ耳鼻科を受診して評価を受けてください。
補聴器に関して気になる点があれば、お気軽にご相談ください!
補聴器を始めた方へ
補聴器を長く・役に立つように使用するために
補聴器は、「現在の聴力でも聞こえるように、耳に入ってくる音を大きくする機械」です。ただし、購入して装着すればすぐに聞こえるようになるわけではなく、「継続して使うこと」と、「こまめな調整」がとても大切です。ここでは、その理由と上手に使い続けるためのポイントをお伝えします。
耳と脳の役割と補聴器の働き
- 耳 … 外から入ってくる音を“感じ取る”
- 脳 … 耳から届いた情報を“聞き取る”
実際に「音を感じ取る」のは耳の役割で、「音として理解する」のは脳の役割です。
聞こえが悪くなると、耳から脳に届く音の情報が少なくなり、それが長期間続くと脳の“聞き取る力”が低下してしまいます。
補聴器は、「耳で音を感じ取りやすいように音を大きくして、脳に届く情報量を増やす」役割を担っています。
補聴器を長く使用することが大切な理由
難聴が続いた後で補聴器を装用すると、脳には久しぶりに多くの音の情報が届きます。すると、「雑音が気になる」「うるさい」「落ち着かない」と感じることがありますが、これは補聴器の問題や失敗ではなく、今まで聞こえていなかった雑音が補聴器で聞こえるようになったり、脳が音に慣れていないために起こる自然な反応です。そのため、
- 音を段階的に大きくしていく
- なるべく長い時間つけ続けて脳を慣らす
という「聞こえのリハビリ」が必要になります。多少不快に感じる時期があっても、継続して装用することで脳が順応し、次第に言葉が聞き取りやすくなっていきます。
補聴器外来でのこまめな調整が必要な理由
補聴器は機械ですので、「設定した通りの音」を出します。
しかし、感じ方はお一人お一人異なり、「大き過ぎる」「小さ過ぎる」「雑音が気になる」「ピーピー音(ハウリング)がする」「つけ心地が辛い」
などの問題が出ることも珍しくありません。そのため、いきなり最終目標の設定にせず、段階を踏みながら短い間隔で受診し、調整を重ねていくことが非常に重要です。これが「補聴器」と「集音器」の大きな違いであり、補聴器外来の役割でもあります。これらを丁寧に続けていただくことで、およそ数か月で言葉が聞き取りやすくなったと感じられる方が多くなります。
実際に「音を感じ取る」のは耳の役割で、「音として理解する」のは脳の役割です。
聞こえが悪くなると、耳から脳に届く音の情報が少なくなり、それが長期間続くと脳の“聞き取る力”が低下してしまいます。
補聴器は、「耳で音を感じ取りやすいように音を大きくして、脳に届く情報量を増やす」役割を担っています。
実際に補聴器を使い始めた方へ
補聴器は、正しく使い続けることで日常生活の聞こえやコミュニケーションを大きく支えてくれる大切な道具です。一方で、「慣れない」「面倒」「雑音が気になる」「効果が分からない」と感じてしまい、途中でやめてしまう方もいらっしゃいます。
ここからは、補聴器を“役に立つもの”として使い続けるためのポイントです。
生活の中で感じる「少しの改善」を大切に
- 会話が少し楽になった
- テレビの音が聞き取りやすくなった
など、小さな変化でも重要です。最初から完璧を目指す必要はありません。
「前より良くなった」という実感が、続ける力につながります。
無理をせず、装用時間を少しずつ増やしましょう
補聴器は長時間の装用が効果的ですが、慣れるまでには個人差があります。
疲れや違和感が強い場合は、
- 静かな環境で短時間から開始
- 慣れてきたら徐々に時間を延ばす
- 会話・外出など少しずつステップアップ
- つらい時は一度外して休憩
というように段階的に慣らす方法が有効です。
「できるだけ長時間、ただし無理せず続ける」ことが長続きのコツです。
調整や相談は遠慮なくお願いいたします。
装用初期は違和感が出やすい時期です。皆様何かしらの問題を感じていらっしゃいます。遠慮はいらないので我慢せず、ぜひご相談ください。
補聴器外来での継続的なサポートが、補聴器を“自分に合った道具”に育てていきます。
家族や周囲の協力も重要です
研究でも、周囲のサポートが継続に役立つことが報告されています。
- 正面から話しかけてもらう
- ゆっくり・はっきり話してもらう
- 名前を呼んでから話し始めてもらう
- 使用を前向きに応援してもらう
こうした配慮が、聞こえやすさにつながり、患者様の自信と継続の助けになります。
「使い続けること」そのものが聞こえを支えます
補聴器は、使うことで効果が育っていく道具です。使わない期間が長いと慣れることができず、違和感が続いてしまいます。慣れない方は、短時間からでも構いません。日常生活の中で継続して使い続けることが、聞こえの安定と満足感につながります。
今回記載したことの他にも分からないこと・不安なことがあれば、いつでもご相談ください。
私たちは、補聴器が皆さまの生活の中で役に立つ存在となるよう、長く安心して使い続けられるサポートを行っていきます。
(参考)補聴器に慣れていくために
聴覚リハビリテーションについて
補聴器を装用し、日常生活の中で音に少しずつ慣れていくことで、補聴器本来の効果が発揮されやすくなります。そのために大切なのが聴覚リハビリテーションです。
聴覚リハビリテーションとは
聴覚リハビリテーションとは、単に音を聞くことだけでなく、「言葉を聞き取り、理解する力」もあわせて高めていく取り組みです。補聴器を使用しながら訓練を行うことで、日常生活での会話や音の聞き取りを、よりスムーズにすることを目指します。
ご自宅で取り組める方法として、以下のようなものがあります。
- 家族との会話練習
ご家族の方と、ゆっくり・はっきりとした話し方で会話をしてみましょう。 - 音読
新聞や本などを声に出して読み、自分の声を耳で確認することで、聞き取りの練習になります。
これらは無理のない範囲で、継続して行うことが大切です。
聴覚リハビリテーションと脳の働きについて
聴覚リハビリテーションでは、繰り返し音の刺激を受けることで、脳の聴覚に関わる働きが活性化すると考えられています。音に触れる機会を増やすことで、脳が音の情報を処理しやすくなり、聞き取りの改善につながる可能性があります。
補聴器の使用と聴覚リハビリテーションを併せて行うことで、音や言葉への適応を助け、日常生活での聞こえをより良いものにしていくことが期待されます。